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仙台高等裁判所 昭和36年(ラ)11号 決定 1961年11月07日

抗告人 中村津恵子

訴訟代理人 中村潤吉

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件抗告理由は別紙抗告理由記載のとおりである。

譲渡禁止の仮処分は仮処分債権者の保護を目的とするものにすぎないから、その効力もその目的の範囲にとどむべきである。したがつて禁止に反して仮処分債務者がした譲渡もこれを絶対に無効とすべきではなく、譲渡をもつて仮処分債権者に対抗することができないにすぎず、その他の関係では完全に効力を有するものというべきである。そして、強制執行手続は一種の譲渡手続であるから、譲渡禁止の仮処分の目的である不動産に対し強制競売手続を開始、進行しても、右手続をもつて絶対に無効とはいえない。ただ競落人はその所有権取得をもつて、仮処分債権者に対抗できないにすぎず、仮処分債権者は右不動産につき本案の登記を申請できる状態になつたときには、競落人の所有権取得登記の抹消を競落人の同意を要せず単独で申請できるものというべきである。したがつて、右不動産に強制競売手続が開始進行しても、仮処分債権者は仮処分の保全目的を害せられるものとはいえないから、強制競売手続の開始進行を阻止することはできないものと解するのが相当である。

それなら本件抗告は理由がないから主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 斎藤規矩三 裁判官 石井義彦 裁判官 佐藤幸太郎)

抗告理由

一、申立人は債務者に対して、昭和三〇年二月四日金五万円也を、支払期日同年二月二八日、利息毎月六分の約束で貸した。

二、申立人は債務者に対して、同年同月五日金拾万円也を、支払期日同年三月五日、利息毎月五分の約束で貸した。

三、債務者は支払期日に支払わないので、申立人は屡々請求したところ、昭和三〇年三月一八日において同年同月一九日までに支払わないときは、本件不動産を代物弁済として申立人に譲渡する約束であつた。

四、申立人は債務者が支払わないので、右不動産について債務者の売買、譲渡その他一切の処分を禁止する仮処分命令を昭和三〇年に申請し、右仮処分決定を受けて、右仮処分決定の登記を経由した。

五、申立人と債務者は御庁昭和三〇年(ワ)第一八号事件について昭和三〇年九月一三日

(1)  債務者が申立人に対して金五万円也及びこれに対する昭和三〇年二月四日以降、金一〇万円及びこれに対する昭和三〇年三月五日以降完済迄年二割の利息を支払うこと。

(2)  右債務総額の二分の一の弁済期を来る一一月一五日、その余の弁済期を来る一二月二八日とする。

(3)  債務者が右期限を一回でも怠つた場合は、申立人は期限到来前でも全額一時請求できる。

(4)  右期限が到来したときは、債務者は申立人に本件不動産の所有権移転登記をすること。

の趣旨の裁判上の和解をした。

六、債務者は右債務を全然支払わないので、右不動産は申立人の所有となつた。

七、右の如く右不動産は申立人により処分禁止の仮処分がなされており、申立人の所有であるから、競落を許可すべきでない。

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